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電磁気学
- Electromagnetics -

第一章 静電気学

1-1 電場








 


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   1-1 電場

■ はじめに
 静電気学というのは、静電場を研究の対象とした電磁気学上の小分野である。静電場とは、その名の通り「静的」、つまり時間経過に対して変化しない定常的な状態にある電場の事を指す。この静電場について論じる為には、いくつかの限定的な条件を付けておかねばならない。はじめにこの条件について述べておく。なお、電場に関してはすぐ後で定義する。

 まず、全ての電荷は勝手に動いてはならない。一般に電荷が移動すると、それに伴って電場にも変化が生てしまうからである。従ってこれから考える電荷は、空間上に固定されていてその場を動かないか、もしくは定常電流を成している必要がある。

 加えて、磁場は完全に遮断されているか、仮に存在しても静的な状態でなければならない(※) 磁場が変化すると、一般に電場も変化する為である。

第一章の議論は、全てこの限定的な条件のもとで論じることにする。


 ※) 電荷は動かないものとしているので、ローレンツ力は考えなくてもよい。




■ 電場
 電場とは何であろうか。まず確実に言えるのは、この世界には電場というものが確かに存在するという事である。空想の産物では無い。いや、元々は空想の産物であったのだが、現在では確かに電場というものが実在する事が確かめられている。
 例えば、我々が普段用いている携帯電話の通信には電波を利用しているが、この電波は電場と磁場の振動が波のように伝わるものである。光も同じであり、実は電波も光も電磁波も全て電磁場の波動であって、全く同じ物理現象なのである。我々が“光”と呼んでいる波長のものを光と呼び、また“電波”と呼んでいる波長のものを電波と呼び、全てをひっくるめるなら“電磁波”と呼べばよい。ただそれだけの違いである。
 電磁波に関しては電磁気学の後半で詳しく扱うが、とにかく電磁波が実際に存在する以上、この世界に電場というものの存在を認めざるを得ない。静電気学における諸課題は、この電場の状態を求める事にある。つまり電場の状態が求まれば、その問題は解けたと見なす。

 さて、電場はある基本的な性質を持っている。それは電場は電気を帯びた存在 ― 電荷を持つ存在 ― に力を及ぼすという性質である。と言うより、言葉の上では「電荷に力を及ぼす性質を持った空間」の事を電場と定義している。電荷に力を及ぼすものとして他にも磁場が存在するが、これは電荷が移動する場合にのみ考えればよい。電荷が静止している状態で受ける力は電場によるものに限られる。

 ここである空間を考えよう。この空間は図1-1に示した。図と言っても空白であるが、単なる図としてではなく本当にそこに空間があると思ってほしい。さて、もしかするとこの空間には電場があるかもしれない。実際そこに電場があるのか、またどのような電場があるのかはまだ一切知らないものとする。この未知の電場の様子を調べるには一体どうすればよいだろうか。
 図1-1には何も書かれていないから、これから電場の様子を見て取るわけにもいかない。しかし実際にそこに本物の静電場があったとしても、目には一切見えない事に違いはない。

    【図1-1】








▲空間の様子。電場の状態を確かめるにはどうすればよいだろう。

 それならば電荷を置いてみてはどうか。先に述べた通り、電荷は電場から力を受ける。電場が目に見えない存在であるならば、図1-1の空間内のあちこちに電荷を置いてみて、電荷が電場から受ける力を測定すればよい(図1-2)。このような用途に用いる電荷のことを試電荷、もしくは試験電荷と呼ぶ。
 但し、よくよく考えるとこの手法には一つ問題がある事に気付く。と言うのも我々が調べたいのは図1-1の空間における電場であるが、今ここで試電荷を置いた事で、図1-2の空間はもはや図1-1の空間と同じものでは無くなったという点である。この事についてはすぐ後で述べるが、結論から言えば今は気にしなくても良い。

     【図1-2】

▲図1-1に試電荷の受ける力を書き加えたもの。
  赤いボールが試電荷。

 図1-2は実際に図1-1の数箇所に試電荷を置き、各所での試電荷の受ける力のベクトルを矢印として書き加えたものである。この力を F としよう。図1-2では F の計測地点は五ヶ所であるが、その気になれば空間内のもれなく全ての点で F を測定する事ができるであろう。つまり試電荷が電場から受ける力は、空間上の全ての点にそれぞれ対応するベクトルの集合として次のように表すことが出来る:

     (1-1)

時間的に変化するなら、

     (1-2)

(※式1-1の r のように太字で書かれた文字は、それがベクトルである事を意味する。)

 さて、一般に x、y、z が異なれば、異なるベクトル F が対応する。無論 t が違っても異なる(但し静電場では時間変化は考えない)。つまり F は全ての空間点・時刻にまたがって、各所に固有の値が定義される存在である。物理ではこのような存在を場(Field)と呼ぶ。値がベクトルの場はベクトル場と呼ばれる。上の F はベクトル場である。

 さて、ある試電荷を用いて上の F を得たとする。そこで別の電荷を持つ試電荷で再度電場を測ると、その新しい試電荷が電場から受ける力はどうなるだろうか? これに対する答えは一般化して次のように与えられる:


「電荷が電場から受ける力は、電荷(の量)に比例する」

 つまり電荷が受ける力 F は電荷 q に何かを掛けて表せるはずである。ならば上の F を試電荷の電荷 q で割ってみてはどうだろう。そうすればこの何かが求まる。これを E とする。

     (1-3)

E の絶対値を E と書く。E の次元は(1-3)より、

     (1-4)

E は言い換えると単位電荷(1[C]の電荷)が電場から受ける力であると言える。F がベクトル場であるから E もベクトル場である。
E をこのように定義しておくと、任意の電気量 q を持つ電荷がその電場から受ける力は次のように即座に算出できる:

     (1-5)

 1-5式の E は電場の様子を完全に記述している。 E が与えられれば、電荷が電場から受ける静電気力を完全に言い当てる事ができるからである。従ってこの E を、電場のベクトル場による表記と取り決めても良いであろう。
 このベクトル場 E電場ベクトルと呼ばれ、通常はこの1-5式の E電場の数式上の定義とする。計算上、電場はこれ以上でも以下でもない、電場ベクトルそのものである。従って概念的な話をするときに電場と言えば、これまで論じてきた“電荷に力を及ぼす空間”の事を指すが、計算上で電場と言えば 1-5式で表される E の事を指す。


■ 試電荷について
 図1-2の試電荷に1[C]のものを用いれば、図1-2の矢印は電場ベクトルに一致する事が分る。矢印のおかげで、電場の様子をかなり簡単に、視覚的に捉えられるようになった。しかし図1-2の矢印は試電荷の受ける力であるから、我々が試電荷を置いた事で今初めて定義されたものである。ここで誤解してはいけないのは、電場そのものが今試電荷を置いた事で定義されたのでは無いという事である。試電荷を置く以前から電場はそこにあり、そこに新たに置かれた試電荷を、既にあった電場が押したのである。仮に試電荷が置かれなくとも、図1-1の空間は試電荷があれば押せる状態になっていたのである。ただ、その事を確かめる為には試電荷を置くしか無かった。だから置いた。そして図1-2の矢印を得た。さて、図1-2の矢印をそのまま図1-1の空間における電場ベクトルと同一視しても良いものだろうか。先にも述べたが、これには次のような疑問が浮かぶ:


「試電荷を置いた事で、既にあった電場の様子が変化してしまった危険性は考えられないか?」

 この疑問はもっともで、実際に電荷は電場の様子を変化させる。だから試電荷を置いた状態での電場は、試電荷の無かった時の電場とは全く別物となってしまう。従って一般に試電荷のもつ電気量の絶対値は、電場への影響を最小限にする為に十分小さなものを用いる必要がある。しかし、話を静電場に限るならば、この事は特に気にしなくても良い。その理由を述べるには重ね合わせの原理について軽く触れておかなければならない。重ね合わせの原理に関して詳しくは後で述べるが、とりあえずこの場について当て嵌めるなら次のようになる:

 試電荷を図1-1の空間に置いた場合にそれが受ける力は、「試電荷の存在しない場合における電場」によるものと「試電荷のみが存在する場合における電場」によるもののベクトル和で表される。

 さてここで、「電荷は自身の生み出す電場からは力を受けない」という事実があり、これを用いると後者による力は0であることがわかる。従って、試電荷を置いたことによって電場に生じた変化は、試電荷自身に及ぶ力には全く影響しない。だから図1-2の矢印は、試電荷の存在しない時 ― つまり図1-1の空間 ― における電場ベクトルを表しているのである。
 仮に図1-2の空間における電場ベクトルを測りたければ、図1-2の試電荷を固定し、新たに別の試電荷を用いて測ればよい。






 

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