■ 電気力線
まず初めに例えるのは、電気力線と呼ばれる架空の曲線である。これは電場の例え方としては大変由緒正しいものであり、実は電場の発想のそもそもの根源が、この架空の曲線なのである。
電場の発想以前、静電気力が遠隔作用論で解釈されていた事はすでに述べた。つまり電荷同士が、空間を越えて直接的かつ遠隔的に力を及ぼし合っていると考えられていたのである。これに対し英国の物理学者ファラデーは、電荷同士を繋ぐ“目に見えない線”を発想し、この線 ― 電気力線 ― が、それぞれの電荷に力を及ぼしていると考えた。同様に磁力を媒介する磁束線も発想された。
電気力線や磁束線の概念は逆二乗力との相性が大変良く、ある程度まで場と同一視してしまう事が可能であり、電磁気学の基本的な諸法則において発想のきっかけともなった。電気力線の具体像は次のようなものである:
この章の初めに電場を矢印で表現した。厳密には空間を密に埋める(全ての空間点上で無数に定義される)矢印であり、矢印の長さを
その地点での電場の強さ、方向を 電場ベクトルの向きに対応させた。
さて、ここに正の電荷 q [C]を持つ点電荷があるとし、その付近にある矢印に注目しよう。その矢印の向きに微小距離だけ進む。続いてその到達点における矢印に注目し、またその向きに微小距離だけ進む…を繰り返せば、つまり矢印をちびちびと辿れば、一本の線が出来る。この線が電気力線(一本)である。
電場の式(1-13)から明らかなように、正電荷のある地点からは電気力線が放射状に生え(図1-9)、負電荷のある地点では逆に一点に吸い込まれていく。
【図1-9】

▲ 左:矢印に沿って進む 右:電気力線 |
図1-9には一つ注意しなければならない点がある。図1-9では電気力線の本数密度が距離に反比例して減少するように見えるが、それは誤りである。図1-9の線は実際には三次元的な放射状態であり、従って紙面に収まらない方向にも線が飛び出している。正しくは距離の逆二乗で減少していく。
■ 電気力線と電場の強さ
さて、一見すると電気力線は電場の向きの情報のみを持ち、電場の強さの情報 ― 矢印では長さで表現していた ― は失ってしまったように思える。しかし実は、クーロン力が逆二乗力の性質を持つおかげで、電場の強さの情報は単位面積を貫く電気力線の本数という形でしっかりと保持されているのである。ここで単位面積は電気力線に対し垂直にとる。
点電荷の場合についてこの事を確かめよう。
まず初めに本数密度を計算可能にする為、正電荷から生える電気力線を有限の本数に制限しておく。仮に
1 [C]の電荷から k [本]の電気力線が、全方位に均一な割合で出ているとしよう。つまり q [C]の電荷からは
kq [本]の電気力線が出ている。但し、k は十分大きいとする。
さて半径 r の地点において、単位面積(線に垂直)を貫く電気力線の本数 N(r) はいくらだろうか(図1-10)。
【図1-10】

▲ 単位面積を貫く電気力線 |
点電荷の電場は放射状であるから、点電荷を中心とする球面に対して常に垂直である。従って
N は半径 r の球面の面積から明らかに:
(1-19)
このように電荷に比例し、距離の逆二乗の値になる。これは電場の強さと全く同じ形であり、比例係数 k-1 を新たに ε0 と置きなおせば:
(1-20)
となり、クーロン電場の強さと N を全く同一視できる事が示せた。クーロン力の比例係数の中にわざわざ4πが含まれているのは、上のような考え方によるものである。
ところで、上のように定数を決めておくと、 k = (ε0)-1 であるから:
(1-21)
と単純な形にまとまる。さて、これをそのまま呑み込んでも良いであろうか? 1-21式の右辺の値によっては電気力線の本数が2〜3本、時には小数という事も有り得るであろう。その場合意味的にまずい事になるのは明らかである。これを防ぐために、最初に
「本数 k は十分大きい」 としていたのである。
本来は電気力線は無数に定義出来るものであり、空間を密に埋め尽くすものである。従って離散的な「本数」という考えを離れ、密度のような連続的な感覚で捉えるべきであろう。そうすれば1-21式右辺は別に小数でも良い。これ以降、電気力線の量は(1-21)で定義する。